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アンケート実施の背景
我々は、令和2年5月2日に病床数削減対象病院(以下「削減対象病院」という。)39医療機関に対して、アンケートを実施することが決定した。削減対象病院にアンケートを送付するにあたり、一般社団法人日本精神科救急学会及び会議参加者12人が発起人となり、作業部会を設置した。
ここに自治体病院も含め、全ての削減対象病院39医療機関のうち37医療機関にアンケートを実施し、報告する。
アンケート結果のまとめ方
1.全国調査結果(630調査等)が公表されている項目については、全国調査結果と削減対象病院の医療実績と比較した。
2.精神科救急入院料の中核的要件である入院患者数、退院率、再入院率、夜間・休日日中の診療件数(外来・入院)、病床利用率、平均在院日数等については、削減対象病院を精神科救急入院料の病床数でグループ化(注)し、精神科救急入院料の病床数と医療実績との相関をエビデンス化すると同時に、精神科救急入院料の病床数と医療実績との相関等について検証した。
(注)精神科救急入院料の病床数別に医療実績を検証するため、精神科救急入院料100床未満のグループ、同100床以上150床未満のグループ、同150床以上のグループに区分した。ただし、自治体病院は、精神科救急入院料の病床数に関わらず独立のグループとしている。
医療実績編
3-1.病院全体の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で在院期間別患者数の構成比を比較すると、3か月未満の在院期間では削減対象病院45.8%、全国病院16.7%となっており、削減対象病院が29.1ポイントも高い。本データは、削減対象病院が長期入院を防止し、早期のうちに地域社会へ戻す役割を担っていることを示している。また、削減対象病院の中でも150床以上病院は、自治体病院9医療機関(以下「自治体病院」という。)、精神科救急入院料の病床数が100床未満である病院群(以下「100床未満病院」という。)及び同100床以上150床未満の病院群(以下「150床未満病院」という。)よりも在院日数が短くなっており、早期のうちに地域社会へ戻る患者の割合が最も高い。
4-1-①.精神科救急入院料の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で精神科救急入院料を届出している病棟(以下「精神科救急病棟」という。)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院89.3%、全国病院78.3%と削減対象病院が11.0ポイント高くなっているが、いずれの精神科救急病棟も、患者の長期在院を防止し、早期のうちに地域社会に戻す役割を担っている。特に、削減対象病院の精神科救急病棟は、全国病院に比べて早期に退院させる機能(以下「早期退院機能」という。)がより強く認められる。なお、早期退院機能は、削減対象病院の中でも150床以上病院により強く認められる。
4-1-②.精神科救急病棟の平均在院日数(平成30年6月30日午前0時時点)
前項(4-1-①)「精神科救急入院料の在院期間別患者数」において、削減対象病院の精神科救急病棟が全国病院に比べて早期退院機能がより強く認められることを報告した。また、削減対象病院と発起人病院(発起人が所属する医療機関)の精神科救急病棟における平均在院日数は、個別性が強く認められるものの、精神科救急入院料の病床数が多い病院では、総じて平均在院日数が短い傾向(平均座員日数60日超の病院が少ない等)にあることがうかがえる。
6-1.精神科急性期治療病棟入院料の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で精神科急性期治療病棟入院料を届出している病棟(以下「精神科急性期病棟」という。)に入院している在院期間別の患者構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院83.6%、全国病院67.5%と削減対象病院が16.1ポイント高くなっている。在院期間3か月未満の患者構成比は、精神科救急病棟でも削減対象病院が11.0ポイント高く(4-1-①の再掲)なっており、削減対象病院は、精神科救急病棟だけでなく、精神科急性期病棟に入院した患者であっても早期退院機能が強く認められる。なお、早期退院機能は、精神科救急病棟と同様、削減対象病院の中でも150床以上病院により顕著に認められる。
7-1.精神療養病棟入院料の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で精神療養病棟入院料を届出している病棟(以下「精神療養病棟」という。)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院8.5%、全国病院4.8%と削減対象病院が3.7ポイント高くなっている。精神科救急病棟や精神科急性期病棟でも削減対象病院が11.0ポイント、16.1ポイントそれぞれ高くなっており、削減対象病院は精神科救急病棟や精神科急性期病棟だけでなく、精神療養病棟に入院した患者であっても長期在院を防止し、早期のうちに地域社会に戻す機能を果たしていると言える。特に、150床以上病院の精神療養病棟は、在院期間1年以上の患者割合が37.0%に止まっており、早期のうちに地域社会を戻す機能が顕著に発揮されている。
8-1.認知症治療病棟入院料の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で認知症治療病棟入院料を届出している病棟(以下「認知症病棟」という。)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では、削減対象病院が24.3%、全国病院が12.8%、在院期間6か月未満でも削減対象病院が38.5%、全国病院が26.3%となっており、削減対象病院は、精神科救急病棟や精神科急性期病棟だけでなく、認知症病棟に入院した患者であっても長期在院を防止し、早期のうちに地域社会に戻す機能を果たしていると言える。特に、150床以上病院の認知症病棟は、在院期間1年以上の患者割合が22.2%に止まっており、早期のうちに地域社会を戻す機能が顕著に発揮されている。
12-1.15対1入院基本料の在院期間別患者数(平成30年6月30日午前0時時点)
削減対象病院と全国病院で精神病棟入院基本料15対1を届出している病棟(以下「精神一般15対1」という。)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では、削減対象病院が19.0%、全国病院が14.0%、在院期間6か月未満でも削減対象病院が32.3%、全国病院が25.1%となっており、それぞれ削減対象病院が5.0ポイント、7.2ポイント高い。また、在院期間1年以上の患者構成比をみると、削減対象病院いずれのグループも全国病院より低い。なお、精神科救急入院料の病床数が多い病院は、精神一般15対1においても1年以上の長期入院患者が少なく、早期のうちに地域社会へ戻る患者の割合が高くなている傾向が認められる。
15-1~4①.平成29年6月1日~6月30日の1か月間(以下「平成29年6月中」という)に新規入院患者の期間別退院割合(削減対象病院と全国病院の比較)
削減対象病院の平成29年6月中の新規入院患者の退院率は、3か月経過時点で65%(全国病院比+7ポイント)、6か月経過時点で91%(全国病院比+12ポイント)、12か月経過時点で96%(全国病院比+9ポイント)となっており、各経過時点において削減対象病院の退院率は全国病院を上回っている。特に、6か月経過時点や12か月経過時点における削減対象病院の退院率は、全国病院より10ポイント程度高く、削減対象病院は、急性期の入院治療を担う高規格の精神科病棟と高度な治療技術により、入院患者を地域社会に戻す使命を全うしていると言える。また、第2回精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会(以下「地域包括検討会」という。)で示された第6期障害福祉計画の成果目標案(以下「成果目標案」という。)では、精神病床における入院後3か月時点の退院率を69%以上、同6か月時点を86%以上、同12か月時点を92%以上とする目標としているが、削減対象病院は既に6か月時点と12か月時点の退院率の目標を達成している。
15-1~4③.平成29年6月1日~6月30日の1か月間(以下「平成29年6月中」という)に新規入院患者の期間別退院割合(削減対象病院内の比較)
平成29年6月中に削減対象病院の精神科救急病棟に新規入院となった患者の退院率をみると、3か月経過時点では自治体病院と150床以上病院が72%とと高く、6か月経過時点及び12か月経過時点では150床以上病院がそれぞれ96%、98%と最も高い。また、150床未満病院は、各経過時点で100床未満病院より高く、150床以上病院より低い。第6期障害福祉計画の成果目標案との比較でみると、既に自治体病院と150床以上病院は各経過時点で成果目標案を上回っており、6か月経過時点及び12か月経過時点では、全ての削減対象病院が成果目標案を上回っている。以上のエビデンスにより、成果目標案の達成には、精神科救急病棟での入院治療が有効であり、特に、精神科救急入院料の病床数が多いほど成果目標案の達成には有力であると言える。
16-5.平成29年度中の平均在院日数(演算値)
削減対象病院の平均在院日数は110.2日で全国病院の267.7日より157.5日短い。この要因は、精神科救急病棟、精神科急性期病棟の平均在院日数が、それぞれ57.4日、64.7日となっており、入院期間の短期化が実現できていることにある。一方、削減対象病院の精神一般15対1や精神療養病棟の平均在院日数は、それぞれ227.0日、471.2日となっており、これらの平均在院日数短縮には、重度・慢性疾患をはじめとする長期入院患者の地域移行に向けた「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の充実が不可欠である。なお、削減対象病院のうち、自治体病院の平均在院日数が83.8日となっている他、100床未満病院の平均在院日数が149.8日、150床未満病院は136.2日、150床以上病院は77.1日となっている。こうしたエビデンスは、精神科救急入院料の病床数と平均在院日数との間に相関があるという結果を示しているものと推認される。
17-1~13①.平成30年3月1日~平成30年3月31日の間(以下「平成30年3月中」)に当該病院を退院した患者の再入院率
平成30年度中に削減対象病院(全ての病棟)退院後、3か月時点で再入院となった患者の割合は(以下「再入院率」という。)14%となっており、調査時点では相違しているものの公表値(「第1回精神保健福祉の養成の在り方等に関する検討会、平成30年12月18日、資料2」から引用、以下同じ)である23%より9ポイント低い。同様に退院後一定期間後の再入院率を公表値と比較すると、すべての時点で削減対象病院の再入院率が低い。また、退院1年後の再入院率は、削減対象病院が32%と全国病院の37%より5ポイント低い。こうしたエビデンスは、削減対象病院の再入院率が低いことを如実に示している。
17-1~13③.平成30年3月1日~平成30年3月31日の間(以下「平成30年3月中」)に削減対象病院の精神科救急病棟を退院した患者の再入院率
削減対象病院の精神科救急病棟退院後の再入院率をみると、退院後1か月時点では150床未満病院が最も低いものの、退院後1か月を超え1年以内の全時点において150床以上病院の再入院率が最も低く、100未満病院の再入院率が最も高い。以上のエビデンスにより、精神科救急入院料の病床数が多いほど再入院率が低くなっている実態が判明した。なお、自治体病院の再入院率は、150床以上病院と同様の退院率で推移している。
21-1.平成30年6月30日現在の人員配置(施設基準で各病棟に求められている配置人員、医師を除く)
21-2.平成30年6月30日現在の人員配置(各医療機関で各病棟に実際に配置している人員、医師を除く)
精神科救急医療を提供している医療機関は、リハビリテーションや地域移行、社会復帰に関する支援等も必要であるため、精神科救急病棟を含むすべての病棟で施設基準以上の人員を配置しているのではないかとの仮定に基づき、施設基準上の人員と実配置人員を調査した。アンケート結果では、削減対象病院の人員は施設基準の1.4倍に及んでおり、精神科救急病棟と精神一般15対1の1.4倍をはじめ、精神療養病棟では1.5倍の人員を配置していることが明らかになった。本エビデンスにより、精神科救急医療の実践には、施設基準が想定する以上の人員が必要になっている実態が判明した。
25-1.平成29年4月1日~平成30年3月31日の間における精神科を受診した外来患者数
25-2.平成30年6月1日~6月30日の1か月間における外来患者実人数・外来患者延数
平成30年6月中に精神科を受診した1医療機関あたり外来患者の実数(実数:1人の患者が期間中に何回受診しても1人でカウント)は、全国病院が863人、削減対象病院が2,175人となっており、実数で削減対象病院には全国病院の2.5倍(延べ数でも2.4倍)の外来患者が受診している。初診料を算定した患者数も削減対象病院が全国病院の2.6倍となっており、削減対象病院の患者数は全国病院の3倍近い水準であると言える。また、削減対象病院の時間外外来患者数は、全国病院の3.9倍となっており、削減対象病院は精神科救急医療施設として地域の精神科救急医療の基幹的な役割を果たしていると言える。また、削減対象病院でも150床以上病院は、自治体病院、100床未満病院および150床未満病院と比較して外来患者が多い。
26-1.平成29年の病床利用率、平均在院日数
26-2.平成30年の病床利用率、平均在院日数
削減対象病院の平均在院日数は、平成29年(1月~12月、以下省略)が116.9日、平成30年が113.4日となっており、全国平均の約3分の1程度の期間となっている。一方、削減対象病院の病床利用率は、平成29年が88.4%、平成30年が89.4%であり、全国病院と比べてそれぞれ1,1ポイント、2,1ポイント高い。こうしたエビデンスから、削減対象病院は全国病院の約3倍の新規入院患者の治療にあたっていると言える。これは、削減対象病院には全国病院の3倍近い外来患者が受診(25-1・2の再掲)していることと無関係ではないと推認される。
36.2018年4月1日~2019年3月31日の間(平成30年度)における精神科救急入院料の施設基準に係る実績
2018年度における削減対象病院1病院あたりの精神科救急入院料の施設基準である時間外、休日又は深夜における診療件数(以下「時間外等外来件数」という。)は643件(4.2病棟分)、うち初診件数が196件(6.5病棟分)、時間外、休日又は深夜における入院件数(以下「時間外等入院件数」という。)は226件(5.6病棟分)となっている。当該施設基準要件と削減対象病院の内訳をみると、自治体病院の実績値は削減対象病院の平均値に近い。また、100床未満病院、150未満病院、150床以上病院でみると、精神科救急入院料の病床数が多いほど夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数が多くなっており、精神科救急入院料の病床数と夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数とは明らかな相関が認められる。
37-①. 2019年4月1日~2020年3月31日の間(令和元年度)における精神科救急入院料の施設基準に係る実績
2019年度における削減対象病院1病棟あたりの精神科救急入院料の施設基準である時間外、休日又は深夜における診療件数(以下「時間外等外来件数」という。)は259件(1.7病棟分)、うち初診件数が77件(2.5病棟分)、時間外、休日又は深夜における入院件数(以下「時間外等入院件数」という。)は86件(2.1病棟分)となっている。当該施設基準要件と削減対象病院の内訳をみると、自治体病院の実績値は削減対象病院の平均値に近い。また、100床未満病院、150床未満病院、150床以上病院でみると、精神科救急入院料の病床数と夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数に明らかな相関は認められないが、いずれも150床以上病院が最も多く、150床病院は病院単位だけでなく病棟単位でも、夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数が最も多くなっている。
41. 自院の最大精神病床数(病床削減の実績)
削減対象病院のうち80.0%で病床削減が行われている。国内の精神病床は過去15年間で35.8万床が31.8万床に減少(減床率11.1%)しているが、削減対象病院は既に22.3%の病床削減を行っており、その変化率は2倍を上回る。精神科急性期医療の強化に伴う入院期間の短縮化が、将来的に余剰病床を招来するとの予測による削減等がその要因であり、地域包括ケアシステムの理念に合致する。本エビデンスは、入院医療における急性期医療の強化が、これらシステム構築や推進にとって絶大な効果を生むことを示している。
42-1. 2018年度(2018年4月1日~2019年3月31日)における精神科救急医療体制整備事業の実績件数(当番日:公式にカウントされる件数)
42-2. 2018年度(2018年4月1日~2019年3月31日)における精神科救急医療体制整備事業の実績件数(当番日以外:公式にカウントされていない件数)
地域包括検討会で示された「精神科救急医療提供体制の都道府県別の状況(2018年度)」では、1精神科救急医療施設(常時対応型・輪番型・合併症型)がカバーする最小人口(富山県3.8万人)と最大人口(広島県47.0万人)の格差は12.4倍に及んでおり、精神科救急医療体制の実態は地域によって大きな差が認められる。また、削減対象病院における夜間・休日日中の診療件数についても、入院件数は非当番日が少ないものの、外来件数は当番日と非当番日に大きな差は認められず、地域の精神科救急医療提供体制の実態は、都道府県によって当番日等の運用が大きく相違しているものと思われる。
45. 「精神及び行動の障害」の一人あたり入院医療費
平成29年度における削減対象病院の患者1人あたりの医療費(区分:精神及び行動の障害)を全国病院と比較すると、削減対象病院が2,642千円、全国病院が4,681千円となり、削減対象病院が2,039千円低い結果となった。また、患者1人あたりの医療費と精神科救急入院料の病床数との相関をみると、明らかな逆相関が認められた。この要因は、精神科救急入院料の病床数と平均在院日数との間にも逆相関が認められていることにあり、精神及び行動の障害分野では、精神科救急入院料の病床数、平均在院日数、患者1人あたりの医療費とは強い相関があると言える。
経営実績編
構成
1. 総資産医業利益率ROA分析
2. EBITDA分析
3. 損益分岐点分析
4. 労働生産性分析
5. 医師の確保
6. 人員の確保
7. 病床数削減にともなう損失分析
8. キャッシュフロー分析
精神科救急医療を担う病院に必要な事は、精神科病院の経営持続性を確保することであると考える。つまり「ヒト・モノ・カネ」の遣り繰りが重要であり、その観点から削減対象病院の財務の分析を行った。なお、本資料は関係者のみに提供させていただくものであるが、情報管理の観点から個別の病院名は非開示としている。また、各項目において対象の削減対象病院はn=〇で標記している。
注)WAM…独立行政法人医療福祉機構
本分析で使用した比較データはWAM2018年度「精神科病院の経営分析参考指標」(対象施設:242)
1. 総資産医業利益率ROA分析(収益性)
削減対象病院のうち民間病院の総資産医業利益率(ROA)は総じてWAM平均を上回っている。一方で、自治体病院は公的な役割を担っていることもあり、ROAが総じて低いことが確認できた。
総資産医業利益率=医業利益/総資産×100
2. EBITDA分析(収益性)
設備投資額が多額となる病院の収益力を確認するため、ROA分析に加えてEBITDA(金利支払前・税金支払前・減価償却前の利益)を用いて考察した。EBITDAを(医業収入+医業外収益)で除算した結果、全病院でWAM平均を上回っており、削減対象病院が一定水準以上の収益性があることが確認できた。
3. 損益分岐点分析
病院は人件費率をはじめとして固定比率が高いため、損益分岐点を確認することにより経営の経営安全度を確認した。経営安全率がマイナスとなっている病院も多く、特に自治体病院の人件費率の高さと経営安全率が大幅にマイナスとなっていることが顕著に表れている。
4. 労働生産性分析
1人あたりの職員の成果(生産物)である労働生産性を考察した結果、削減対象病院は総じて労働生産性が高いことが確認された。人件費が大半を占める付加価値額が大きいほど職員数に関係なく労働生産性が高い傾向にあると言える。
※労働生産性は付加価値を職員数で除算
5. 医師の確保
削減対象病院(n=32)が直近3年間で採用した常勤精神科医261名に対し、退職した常勤精神科医が252名もおり、純増は9名に止まっている。この要因は削減対象病院には症例が豊富にあり、指定医の資格取得後に退職して独立する医師が多いことにあると考えられる。削減対象病院が配置基準維持のために常時、民間病院と自治体病院の別なく、医師確保に苦労していることが窺える。
6. 人員の確保
削減対象病院と日本精神科病院協会データ(※)(以下、日精協)との職種別の100床あたりの職員数を比較すると、精神科医、精神保健福祉士、看護師、事務職員は、削減対象病院の人員が日精協を大きく上回っている。特に看護師は日精協の23.7人に対し削減対象病院は46.1人となっている。精神科救急を担う病院は手厚い医療提供のために、施設基準を超えた人員を配置していると言える。
※日本精神科病院協会データ…平成30年度日本精神科病院協会総合調査報告
7. 病床数削減にともなう損失分析
病床数削減にともなう各病院の状況は個別に異なるが、削減対象病院のうち20病院(自治体5病院を含む)だけで、病床削減により削減可能な人件費を控除した医業粗利益が理論値で約38億円、実態値で約45億円と影響額が余りにも大きい。なお、施設基準上は削減可能でも医療提供体制維持のために理論上削減可能な人員を削減することは不可能なことから、理論値と実態値に約7億円の違いが生じている。
※医業粗利益=医業収益-人件費のみで試算
8. キャッシュフロー分析
損益計算書上では利益がでていても期日に支払資金を用意できないと資金繰りは行き詰まり、事業の継続が不可能となる。この状態が一般的に「債務不履行(デフォルト)」と言われている。今回取り上げているケースも基準病床数の減少によりキャッシュフローがマイナスとなり、更に新たな施設投資によって大幅にキャッシュフローがマイナスになっている試算が認められた。この場合は金融機関等から資金を調達する必要があるが、金融支援がうけられなければデフォルトすることになる。
まとめ
1.精神科救急入院料並びに削減対象病院のパフォーマンスが高いことを客観的に示すことができた。
2.入院者数、退院率、再入院率、夜間・休日日中の診療件数、病床利用率、平均在院日数、措置入院数、医師数、看護師数、外来者数などの診療データが削減対象病院の優位性を示した。それは、救急病床が多くなるほど強くなる傾向がみられた。
3.削減対象病院は救急病床を増設すると同時に精神病床の削減を行っており、病床削減実績においても国が示す方針に沿った医療を行っていることが認められた。
4.削減対象病院の入院医療費についても、全国病院と比較して低く抑えられ、救急病床が増加するにつれて、さらに低コスト化が強まる傾向が認められた。
5.経営実績編を見ると、救急病床が削減されることにより、対象病院の経営上の悪化が顕著であることが判明した。
『精神科救急病棟の病床数制限にかかる作業部会』(仮)発起人名簿
(注)発起人は50音順、敬称略で掲載しています。
一般社団法人 日本精神科救急学会 | |
来住 由樹 | 岡山県精神科医療センター 院長 日本精神科救急学会 副理事長 同 医療政策委員会委員 |
佐藤 悟朗 | 医療法人社団更生会 草津病院 理事長・院長 |
澤 温 | 社会医療法人北斗会 さわ病院 理事長 日本精神科救急学会 元理事長 同 医療政策委員会委員 |
澤 滋 | 社会医療法人北斗会 ほくとクリニック病院 理事 日本精神科救急学会 理事 |
新貝 憲利 | 翠会ヘルスケアグループ 代表 元 海精会会長 医療法人社団翠会 陽和病院(東京) 医療法人社団翠会 八幡厚生病院(福岡) |
杉山 直也 | 公益財団法人復康会 沼津中央病院 院長 日本精神科救急学会 理事長 |
鈴木 健夫 | 医療法人大壮会 久喜すずのき病院 理事長 |
中島 豊爾 | 岡山県精神科医療センター 理事長 全国自治体病院協議会 副会長 日本精神科救急学会 監事 |
平田 豊明 | 千葉県精神科医療センター 名誉院長 日本精神科救急学会 前理事長 同 医療政策委員会委員 |
藤田 潔 | 医療法人静心会 桶狭間病院藤田こころケアセンター 理事長・院長 日本精神科救急学会 医療政策委員長 |
堀川 公平 | 医療法人コミュノテ風と虹 のぞえ総合心療病院 理事長・院長 日本精神科救急学会 教育研修委員長 同 医療政策委員会委員 |
松原 三郎 | 社会医療法人財団松原愛育会 松原病院 理事長・院長 「これからの精神科病院を考える会」代表 |
アンケートに参加した病院
(法人・自治体別50音順)
医療法人栄仁会 宇治おうばく病院 |
医療法人杏和会 阪南病院 |
医療法人コニュノテ風と虹 のぞえ総合心療病院 |
医療法人財団厚生協会 大泉病院 |
医療法人財団光明会 明石こころのホスピタル |
医療法人財団青渓会 駒木野病院 |
医療法人資生会 八事病院 |
医療法人社団 旭川圭泉会病院 |
医療法人社団更生会 草津病院 |
医療法人社団碧水会 長谷川病院 |
医療法人社団豊永会 飯塚記念病院 |
医療法人社団優なぎ会 雁の巣病院 |
医療法人寿栄会 有馬高原病院 |
医療法人尚生会 湊川病院 |
医療法人静心会 桶狭間病院藤田こころケアセンター |
医療法人成精会 刈谷病院 |
医療法人清和会 浅井病院 |
医療法人せのがわ 瀬野川病院 |
医療法人大壮会 久喜すずのき病院 |
社会医療法人居仁会 総合心療センターひなが |
社会医療法人公徳会 佐藤病院 |
社会医療法人財団松原愛育会 松原病院 |
社会医療法人北斗会 さわ病院 |
社会福祉法人恩賜財団 済生会支部 埼玉県済生会鴻巣病院 |
特定医療法人共和会 共和病院 |
翠会ヘルスケアグループ 医療法人社団翠会 成増厚生病院 |
翠会ヘルスケアグループ 医療法人社団翠会 八幡厚生病院 |
翠会ヘルスケアグループ 医療法人社団翠会 陽和病院 |
岡山県精神科医療センター |
神奈川県立精神医療センター |
京都府立洛南病院 |
群馬県立精神医療センター |
静岡県立こころの医療センター |
福岡県立精神医療センター大宰府病院 |
宮城県立精神医療センター |
山口県立こころの医療センター |
山梨県立北病院 |
(法人・自治体別50音順) |