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令和4年4月精神科救急医療に関する診療報酬改定における
精神科救急・急性期医療を守る会のアンケート結果
令和4年度診療報酬改定の問題点の要約
1.精神科救急医療体制加算で身体合併症、常時対応型、輪番型の3つに分けられて、身体合併症と常時対応型に関しては都道府県の承諾が必要となった。
2.精神科急性期医師配置加算においては、クロザピンの実施件数が1病棟当たり6件の要件が必要となった。
3.精神科救急医療体制加算で認知症が対象から外された。
今回のアンケートに関する病院の属性
令和2年度診療報酬改定において、精神科救急病棟における病床の削減が決まり、それに対して救急病棟を複数持つ全国の39病院が団結し、精神科救急・急性期医療を守る会が発足した。今回、令和4年度診療報酬改定において、この会の39病院すべてのアンケート結果がここでまとめられた。精神科救急・急性期医療を守る会の病院の特性をここに示す。39病院のうち73%が民間単科精神科病院であるが、24%の公立単科精神科病院と1つ(3%)の大学病院が含まれている。
令和4年度診療報酬改定で令和4年3月末で300床未満の病院は60床まで、300床を超える病院では総病床数20%までとすると予告通りには実施されなかった点についての評価
令和4年度診療報酬改定で令和4年3月末で300床未満の病院は60床まで、300床を超える病院では総病床数20%までとするとの予告通りには実施されなかった点についての評価において、過半数が「非常によいと評価できる」となっており、「よいと評価できる」の回答と合わせて90%に達している。
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療に関する全体評価
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療に関する全体評価として、「完全に同意できる」が3%と「ある程度評価できる」が72%で合計75%が肯定的にとらえている。
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療に関する個別評価(複数回答可)
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療に関する個別評価として、一番多かったのが、「総病床数の20%という制限が撤回されたこと」であった。二番目が「精神科救急医療体制加算により、地域精神科医療への貢献という役割が以前より強調されたこと」、三番目が「時間外の外来受診患者については、精神科救急急性期医療入院料や精神科救急医師体制加算から時間外の要件がなくなり、精神科急性期医師配置加算の年間20件以上のみとなったこと」、四番目が「都道府県の承認が得られれば、120床を超える病床についても精神科救急医療体制加算が取得できる規定がもうけられたこと」そのほかに続く。
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療の問題点(複数回答可)
令和4年度診療報酬改定での精神科救急急性期医療の問題点について、一番目は「精神科急性期医師配置加算の算定において、精神科救急・急性期医療と本来は直接関連のないクロザピン実施数が要件として必須となったこと」、二番目は「 精神科救急医療体制加算の算定対象となる患者要件(認知症、感情障害)が変更されたこと」、三番目は「精神科救急医療体制加算の認可状況(身体合併症対応型、常時対応型、輪番型)が都道府県により異なっていること」、四番目は「精神科救急医療体制加算の120床を超える病院に関し、都道府県の承認が必要とされたこと(判断基準が明確でないこと)」、五番目は「クロザピン新規導入件数6件を満たせず精神科急性期治療病棟に医師配置加算を届出した場合、医師配置と看護配置の数に逆転現象が起きること」、六番目は「 医師配置加算に指定医2名の要件が規定されたこと」、七番目は「精神科急性期医師配置加算に m-ECT の要件が規定されなかったこと」、八番目は「救急急性期の病床数の上限が300床と規定されたこと」であった。
常時対応型又は身体合併症対応施設の指定が都道府県から受けることができない
現時点で「常時対応型又は身体合併症対応施設の指定が都道府県から受けることができない。」病院が44%で、すでに指定を受けられた病院が56%であった。
常時対応型又は身体合併症対応施設の指定が都道府県から受けることができない理由
「常時対応型又は身体合併症対応施設の指定が都道府県から受けることができない理由」として、「事績があるにもかかわらず、都道府県または政令市の許可が得られない」が30%、「対応に時間がかかっている」が29%、「その他の理由」が41%であった。都道府県により事情がかなり異なっており、まだ混乱が続いている状況がうかがわれる。
令和4年10月1日以降、精神科救急医療体制加算について120床を超えて算定する予定はありますか?
令和4年10月1日以降、精神科救急医療体制加算について120床を超えて算定する予定はありますか?
ある 2病院
ない 30病院
「ある」を選ばれた施設にお尋ねします。都道府県からの認可は受けることができましたか?
2病院とも認可の見込みはいまだ不明
クロザピンの使用状況についてお尋ねします。
クロザピンの使用状況についてお尋ねします。貴院は現時点で、CPMS(Clozaril Patient Monitoring Service)の登録医療機関でしょうか?
全病院が登録医療機関であった。
1年間のクロザピン新規導入数(令和5年度は見込数)
横軸に個々の病院、縦軸に1年間のクロザピン件数を表しており、青が令和3年度、赤が令和5年度の見込み数である。33病院中24病院(72.7%)が明確に令和5年度の見込数が令和3年度の実績数を上回っている。
クロザピン処方が多くの医療施設でなされ、適応がある患者が処方をうけることができるには、どのような診療報酬制度上の対応がよいと考えますか。
「クロザピン処方が多くの医療施設でなされ、適応がある患者が処方をうけることができるには、どのような診療報酬制度上の対応がよいと考えますか。」に対して、病院ごとにクロザピン実施数を規定するほうが良いと考える病院が58%、病棟ごとにクロザピン実施数を規定するほうがよいと考える病院が8%で、その他の意見が34%であった。
精神科急性期医師配置加算(以下、医師配置加算)でのクロザピン年間導入数が満たせない。
「精神科急性期医師配置加算(以下、医師配置加算)でのクロザピン年間導入数が満たせない。」と考えている病院は、56%と過半数を超える。44%が実施可能と考えている。病院によって分かれている実態が浮き彫りにされた。できると答えた病院でも見込みで出来ると考えている病院も多く、大多数の病院が不安を抱えていると思われる。さらに、比較的体制が整っていない守る会以外の病院にアンケートを実施した場合にさらに実施不能な病院が増加するのではないかと危惧している。
前記設問で「はい」を選ばれた施設にお尋ねします。理由は以下の何れでしょうか?
満たせないと答えた病院で病棟ごとの基準が満たせない病院が50%、病院全体で言っても基準が満たせない病院が36%であった。
クロザピン実施の持続性に対する検討
仮定1 すでにいる対象患者
病院全体の主病が統合失調症の患者数(外来・入院を合わせた実人数)
このうちの25%が治療抵抗性
このうちの30%同意できる
仮定2 新規に発生する対象患者
病院全体の初診患者のうち主病が統合失調症の患者数
このうちの25%が治療抵抗性
このうちの30%同意できる
クロザピン実施予定数
(A)旧精神科救急入院料を算定していた病棟の数(経過措置後も同数の救急急性期病棟数を運営すると仮定)にクロザピン要件の6件をかけて数を算出した。
(B)仮定1、仮定2で算出した数を合計する。ただし、1年目は仮定1のみの数とする。
(B)から(A)を毎年引いていき、10年間の持続可能性について検討した。
クロザピン実施の持続性に対する検討
クロザピンの件数が不足して実施不能になる病院の毎年の累計数(10年以内に10病院が継続不能になる)
アンケートに回答した38病院のうち、3年目に1病院が達成不能になり、順次増加して、10病院が10年以内にクロザピンの導入要件を達成できなくなることが示された。
クロザピン要件に対する要約
以上を要約するとクロザピン要件の達成が難しいことが判明した。
そのために何らかの対応が必要であると思われるが、アンケート上の意見を要約すると
① そもそも、診療報酬上にクロザピン導入数を規定するのは問題がある。
② 病棟ごとのクロザピン実施数を病院ごとに改める。
③ CPMSの基準を緩和する。
精神科救急医療体制加算(以下、救急体制加算)の算定患者のいる病床で、BPSDを伴う認知症患者は算定ができなくなります。
精神科救急医療運営上の影響はありますか。
「精神科救急医療体制加算(以下、救急体制加算)の算定患者のいる病床で、BPSDを伴う認知症患者は算定ができなくなります。精神科救急医療運営上の影響はありますか。」について、「相当ある」と答えた病院が48%、「わずかにある」と答えた病院が47%となっている。
前記設問で、「相当ある」を選ばれた病院にお尋ねします。
精神科救急医療体制加算を算定する病棟に入院する患者のうち、認知症患者のBPSDを伴う認知症患者はどれくらいですか。
「前記設問で、「相当ある」を選ばれた病院にお尋ねします。精神科救急医療体制加算を算定する病棟に入院する患者のうち、認知症患者のBPSD を伴う認知症患者はどれくらいですか。」について、「BPSDを伴う認知症患者が50%以上」が11%、「BPSDを伴う認知症患者が30%以上」が26%、「BPSDを伴う認知症患者が10%」が58%であった。
精神科救急医療体制加算についてBPSDを伴う認知症に関する経過措置終了の対応についてお尋ねします。
BPSDを伴う認知症の新規入院患者の入院には、どの病棟を用いる予定ですか?
移行措置後は、「精神科救急急性期病棟に入院する」45%、「精神科急性期治療病棟に入院する」18%、「認知症治療病棟に入院する」5%、「出来高病棟に入院する」11%、「精神科療養病棟に入院する」0%、その他21%であった。これは、精神科救急急性期病棟は人員基準が高いので、加算が取れなくてもここに入院させる割合が高いのではないかということを意味する。
BPSDを伴う認知症患者であっても、精神科救急医療体制加算(以下、救急体制加算という)が算定できなくなった場合、患者さんに不利益、精神科救急医療の機能低下が発生するでしょうか?
BPSDを伴う認知症患者が精神科救急医療体制加算が算定できなくなることで、過半数の病院(69%)が「患者さんにとって不利益・機能低下が発生する」と考えている。「発生しない」と考えている病院が31%であった。
救急病棟に入院した患者のうちBPSDを伴う認知症患者の割合(病院別の令和3年度1年間の実績)
横軸は個々の病院を意味し、縦軸は救急病棟に入院した患者のうちBPSDを伴う認知症患者の割合を示したものである。BPSDを伴う認知症患者が少ない病院もあるが、このように多くの病院がBPSDを伴う認知症患者を取り扱っている。
BPSDを伴う認知症に対する要約
以上の意見を要約すると、認知症患者にBPSDを伴った場合、認知症治療病棟をはじめとするほかの病棟では、人員基準が低すぎて対応が困難である。そのため、救急急性期治療病棟での治療が必要である。前回通り、認知症にBPSDを伴った場合、精神科救急医療体制加算を認めてほしい。
認知症治療病棟入院料を算定する病棟がありますか?
認知症治療病棟を持っている病院は21%、ない病院が79%であった。
「ある」を選択された施設にお尋ねします。認知症治療病棟を設置された理由は以下の何れでしょうか。
①認知症治療病棟が、BPSDを伴う認知症治療には精神科救急・急性期病棟等よりも効果的である。 0病院
②BPSDを伴う認知症治療には、精神科救急・急性期入院病棟等で初期治療を行い、その後認知症治療病棟を用いることが効果的。 5病院
③その他 3病院
電気痙攣療法についてお尋ねします。貴院では修正型電気痙攣療法を実施されていますか?
修正型電気痙攣療法(麻酔科医による筋弛緩とマスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔+サイマトロン)を実施している病院が72%あるが、実施していない病院も28%ある。実施していない病院においては、クロザピンの導入にも影響を与えるであろう。
「実施していない」を選択された施設にお尋ねします。理由は以下の何れでしょうか?
ほとんどが麻酔科の確保が困難のためである。
精神科救急医療体制加算の要件に対する意見についての要約
各都道府県によって身体合併症対応、常時対応型に対する承認の実態がまちまちであった。さらにその承認基準に不明瞭な点が目立った。
令和4年4月1日現在での救急急性期病床数の変化
令和4年4月1日の届出の時点での救急急性期病床数の変化 1病院のみが増加させている。残りの38病院は変化なしとしている。
令和4年4月1日時点の精神科救急医療体制加算の区分
令和4年4月1日の届出の時点で精神科救急医療体制加算
身体合併症対応が1病院、常時対応型が18病院、輪番型が20病院であって、まだこの段階では輪番型が多数を占めている。
令和4年10月時点の貴施設届出予定についてお尋ねします。
令和4年10月1日の届出の予定については、今までと変わらないが56%、変更を検討中が36%、すでに変更を決定しているが8%であった。
令和6年4月時点の貴施設届出予定についてお尋ねします。
令和6年4月1日の届出の予定については、令和4年10月と変わらないが49%、変更を検討中が46%、すでに変更を決定しているが5%であった。
精神科救急・急性期医療を守る会の要望
1. 精神科救急・急性期医療を守る会として、クロザピン要件の再考を要求する
病院全体の実施数にする
2. 精神科救急医療体制加算でBPSDを伴う認知症患者に対して、算定可能にする
3. 身体合併症対応、常時対応型の認定に関しては、国の基準を明確にすることを要求する