学会発表

第28回日本精神科救急学会学術総会
一般演題「措置・制度」

救急入院料病棟の問題点
澤 温(社会医療法人北斗会さわ病院)

1996年に精神科急性期治療病棟が新設された時、「当該病院の精神病床300床以下の場合は60床以下で、当該病院の精神病床300床を超える場合はその2割以下」という制限がつけられた。これに対し日本精神科救急学会は反対し、演者も文献1のように論述した。
 2002年、精神科救急入院料病棟が新設されたときには、このような制限はつかなかった。
 しかし、2018年4月の改定で「当該病院の精神病床300床以下の場合は60床以下で、当該病院の精神病床300床を超える場合はその2割以下」「ただし、平成30年3月31日時点で、現に当該基準を超えて病床を有する保険医療機関にあっては、当該時点で現に届け出ている病床数を維持することができる」と既得権は認められたが、その後本年4月の改定で「ただし、平成30年3月31日の時点で、現に当該基準を超えて病床を有する保険医療機関にあっては、令和4年3月31日までの間、当該時点で現に届けている病床数を維持することができる。」と期間制限がつけられた。
 これに対し、演者は文献2の下線のように論述した。
 現在精神科救急入院料病棟は全国で160施設余あるが、今回の基準に抵触する医療機関は公私合わせて37施設あり、現在国が推進している地域包括ケアや地域移行し減床することにブレーキをかけ、特に、2016年新設された地域移行機能強化病棟では『⑴⑵略、⑶当該保険医療機関全体で、1年当たり、当該病棟の届出病床数の5分の1に相当する数の精神病床を減らしていること。』とあり、減床活動と相反する状態が発生し現場は混乱している。
 現在公私37病院で調査中であるが、今後の地域包括ケア推進に論理的にも問題ある制限という点を議論したい。
文献1
 精神科急性期治療病棟の基準の矛盾、問題点とさわ病院の現状(澤 温、溝端直子:日本精神病院協会雑誌18; 136-143, 1999)
 以前から筆者は主張しているのだが「当該病棟の病床数は、当該病院の精神病床数が300床を超える場合にはその2割以下である」とはなんの意味があるのだろうか。急性期治療の必要性はそのような患者がどの程度いるか、つまり急性期治療が必要な患者の出入り数によるべきであって、総病床数とはなんの関係もないのである。たとえば総病床数が300床で月120名の入退院で60床までしか作れない、600床で月120名の入退院で120床まで持てて、900床で月60名の入退院でも180床まで持てるという例を見れば、この基準がおかしいのは明らかであろう。筆者はかねてから1カ月の入退院数の2倍までといった基準が適当であると主張している。
 この基準は病床削減へのインセンティブを低くし、精神医療のあるべき姿にブレーキをかける基準であるといってよい。ちなみに当院は87年には603床であったが、外来数は増えているものの入院ベッドはすでに534床まで減らしている。2病棟持って、さらに総病床数を減らそうとすれば、関係ない急性期治療病棟のベッドまで減らさなければならないという矛盾にぶつかるのである。
文献2
精神科病院の今、そしてこれから(医師の立場から)(澤 温:日本病院・地域精神医学会誌、62; 216-220, 2020)
 また2008年5月発出の通知「精神科救急医療体制の整備事業の実施について」(障発第0526001)、精神科救急医療施設には病院群輪番施設と常時対応施設が規定されているが、1995年10月発出の通知「精神科救急医療システム整備事業の実施について」以来書かれている「地域の実情に応じた精神科救急医療体制」と、いわゆる救急告知病院でいくつかの科とならんで精神科は輪番で良いということが、例外でなく本体となってしまっている。この点ももう一度振り返って常時対応型も規定した新たな基準の病棟を考えるべきだろう。それなのに2018年の診療報酬改定で「当該病院の精神病床300床以下の場合は60床以下で、当該病院の精神病床300床を超える場合はその2割以下」といった規制をかけてきた。急性期治療病棟の規定にあって、これでは地域移行して減床するのにブレーキがかかると批判し、救急入院料病棟では外されたのに、過去の経緯を知らない厚労省の担当者が以前の規定を単に意味のない模倣してしまった。再度例えるなら、水槽に水を入れるのに、水槽の大きさは水の出し入れのスピードとは無関係と言えばわかりやすいかもしれない。

 
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