学会発表

第28回日本精神科救急学会学術総会
シンポジウム「精神科救急と高規格病棟~現状とあり方、その役割について~」

複数の病棟を有し上限超となる病院の立場から
佐藤 悟朗(医療法人社団更生会草津病院)

はじめに
 平成30年度診療報酬改定において、精神科救急入院料(以下救急入院料)病棟の病床数が、精神科病床が300床以下の場合は60床、300床を超える場合は2割以下となり救急入院料認定要件の厳密化が行われた。ただし平成30年3月末現在の認可施設は現状を容認するとなっていた。しかし令和2年度改定においては、病床規制の上限を超える施設の容認期限が2年後に設定され、公的病院を含む39病院(以下削減対象病院)がこの病床規制の対象となった。この度37病院からアンケートの回答を得た為報告する。
手法
 全国調査結果(630調査等)が公表されている項目については、全国調査結果と同時期の削減対象病院の医療実績との比較を行った。救急入院料の中核的要件である入院患者数、退院率、再入院率、夜間・休日日中の診療件数、病床利用率、平均在院日数等については、削減対象病院を救急入院料の病床数でグループ化し、救急入院料の病床数と医療実績との相関をエビデンス化すると同時に、救急入院料の病床数と医療実績との相関等について検証した。
結果
 平成29年6月中の削減対象病院の新規入院患者の退院率は、12か月までの各経過時点において全国病院を上回っていた。第6期障害福祉計画の成果目標案と削減対象病院の比較では、削減対象病院は6か月と12か月時点の退院率の目標をすでに達成していた。また、削減対象病院内での比較では各経過時点において精神科救急病床数(以下救急病床数)が多くなるほど退院率が上昇していた。
 平成29年度の削減対象病院の平均在院日数は110.2日で救急病床数が多くなるほど平均在院日数は短くなっていた。
この傾向は削減対象病院の他の入院基本料においても同様の傾向が見られた。
 平成30年度中に削減対象病院の全ての病棟から退院後の再入院率を公表値と比較すると、すべての時点で削減対象病院の再入院率が低かった。また、削減対象病院の精神科救急病棟退院後の再入院率をみると、退院後30日時点では100~150床未満病院が最も低かったものの、退院後60日を超え1年以内の全時点において救急病床数が多くなるほど再入院率が低くなった。
 平成30年度における削減対象病院の夜間・休日日中診療件数は、救急入院料の施設基準を大きく上回る診療を行っていた。また救急病床数が多くなるほど1病棟当たりの夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数は多くなっていた。
病床削減実績においては、削減対象病院の80.0%で病床削減が行われていた。また国内の精神科病床の減床率は過去15年間で11.1%であるが、削減対象病院は2倍以上の22.3%の病床削減を行っていた。
 地域包括ケア検討会で示された「精神科救急医療提供体制の都道府県別の状況(2018年度)」では、1精神科救急医療施設がカバーする最小人口と最大人口の格差は12.4倍に及んでおり大きな地域差を認めた。また、削減対象病院は非当番日においても夜間・休日日中の診療を積極的に行っていた。
 削減対象病院の精神および行動の障害の一人当たりの入院医療費は200万円程度低くなっており、救急病床数が増えるにつれ、さらに入院医療費は減少していた。
考察
 削減対象病院は、診療データ、病床削減実績、入院医療費どの項目においても、国が目指す方針に沿った医療を行っており、救急病床数が多くなるほど強くなる傾向が見られた。
 診療報酬改定の救急・急性期病棟が2割以下という基準はエビデンスがなく、国がさらなる病床削減を目指すのであれば、救急・急性期病床数も減らさなければならないという矛盾を抱えている。残り8割の病床は精神科特例の適応となる為、一般科以上に当直体制や退院支援、地域とのカンファレンス実施など地域包括ケアを実行する為の基本体制にも大きな影響が出る。また、削減対象病院は当番日以外も夜間・休日日中の診療を積極的に行っているが行えなくなり、精神科救急医療施設の配置が少ない地域では精神科救急医療体制の崩壊を招く可能性が高い。これから精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを推進する為には、身体合併症対応、未受診者の対応など、よりマンパワーを必要とする患者層に対応する必要があるが足元の精神科救急医療体制の維持すら困難となる。
 全国病院の入院医療費が削減対象病院より高額なのは平均在院日数が長い為で、救急病床数に制限をかけることはかえって医療費の増加を招くことにつながると考える。

 
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