寄稿文

精神科救急病棟の病床数制限にかかるアンケート実施報告

英文表題:Questionnaire report on the limitation of the number of beds in the psychiatric emergency ward

佐藤悟朗
英文著者名:Goro Sato
キーワード:精神科救急病棟、病床数制限
英文 key words:psychiatric emergency ward、limitation of the number of beds
所属:医療法人社団更生会草津病院
〒733-0864 広島県広島市西区草津梅が台10-1
英文所属 Kusatsu Hospital

抄録
 2020 年診療報酬改定において、2022 年に医療機関の精神科病床数が 300 床以下の場合は 60 床以下であり、300 床を超える場合は 2 割以下であることとなり救急入院料認定要件の厳密化が行われた。この度、公的病院を含む 39 病院がこの病床規制の対象となり、37 病院からアンケートの回答を得た為報告する。削減対象病院は、診療データ、病床削減実績、入院医療費どの項目においても、国が目指す方針に沿った医療を行っていた。この規定が実行されれば、精神科医療機能、平均在院日数、病床削減、入院医療費どの項目においても悪化することが予想された。
 In the 2020 medical fee revision, in 2022, if the number of psychiatric beds in a medical institution is 300 or less, it will be 60 or less, and if it exceeds 300, it will be 20% or less, and the strict requirements for emergency hospitalization fee certification will be applied. The conversion was done. This time, 39 hospitals including public hospitals are subject to this bed regulation, and 37 hospitals have responded to the questionnaire. The hospitals targeted for reduction provided medical care in line with the national policy in all items of medical data, bed reduction results, and inpatient medical expenses. If this provision is implemented, it is expected that psychiatric medical function, average length of stay, bed reduction, and hospitalization medical expenses will all deteriorate.

はじめに
 平成 30 度診療報酬改定において、精神科救急入院料(以下「救急入院料」)病棟の病床数が、当該医療機関の精神科病床数が 300 床以下の場合は 60 床以下であり、300 床を超える場合は 2 割以下であることとなり救急入院料認定要件の厳密化が行われた。ただし平成 30年 3 月末現在の認可施設は現状を容認するとなっていた。しかし令和2年度改定においては、病床規制の上限を超える施設の容認期限が 2 年後に設定され、公的病院を含む 39 病院(以下「削減対象病院」)がこの病床規制の対象となった。このたび 37 病院からアンケートの回答を得たため報告する。

目的と限界
 本来であれば削減対象とならない病院との比較が最も適切であるが、本アンケートは削減対象病院だけを対象としており、主に削減対象病院の実績とすでに公表されている 630調査結果(全病院の実績値、以下「全国病院」)との比較検討にとどめている。また、個別医療機関の判別不能性の確保については十分配慮した。

手法
 国調査結果(630 調査等)が公表されている項目については、全国調査結果と同時期の削減対象病院の医療実績との比較を行った。救急入院料の中核的要件である入院患者数、退院率、再入院率、夜間・休日日中の診療件数、病床利用率、平均在院日数等については、削減対象病院を救急入院料の病床数でグループ化し、救急入院料の病床数と医療実績との相関をエビデンス化すると同時に、救急入院料の病床数と医療実績との相関等について検証した。

結果
1.削減対象病院の精神科救急入院料の病床数の背景(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=37)
 アンケートに回答した削減対象病院37医療機関の救急入院料の病床数は、全国病院の41.4%を占めていた。日本精神科救急学会が2020年5月に実施した自治体アンケートでは、救急入院料の病床を有する医療機関の貢献度が「極めて大きい」と「大きい」で92%を占めており、診療報酬改定によって救急入院料病床が減少することになった場合の精神科救急医療体制への影響についても「極めて大きい」と「大きい」が69%を占めていた(杉山直也. 精神科救急入院料および精神科急性期治療病棟の現状と改定の影響. 日本精神科病院協会雑誌 2020;第 39 巻第 10 号)1)。令和2年度診療報酬改定で設定された経過措置どおり救急入院料の病床数が制限された場合、削減対象病院が所在する20都道府県の精神科救急医療体制整備事業に少なからず影響があると言えた。

2.病院全体の入院患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=35)
 全国病院に入院している措置入院患者と緊急措置入院患者の合計1,530人のうち、324人が削減対象病院に入院しており、その構成比は21.2%となっている。更に、平成30年6月30日における削減対象病院の措置入院及び緊急措置入院患者の構成比は3.2%となっており、全国病院の0.5%より2.7ポイント高かった。こうしたエビデンスから、削減対象病院は、措置患者及び緊急措置患者の入院治療に積極的に取り組んでいると言えた。また、全入院患者における非自発入院の構成比でも、削減対象病院は67.4%と全国病院より19.9ポイント高くなっており、削減対象病院は全ての非自発入院患者の入院治療に積極的に取り組んでいると言えた。

3.精神科救急入院料の在院期間別患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=36)
 削減対象病院と全国病院で救急入院料を届出している病棟(以下「精神科救急病棟」)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院89.3%、全国病院78.3%と削減対象病院が11.0ポイント高くなっており、削減対象病院の精神科救急病棟は、全国病院に比べて早期に退院させる機能(以下「早期退院機能」)がより強く認められた。なお、早期退院機能は、削減対象病院の中でも150床以上病院により強く認められた。

4.精神科急性期治療病棟入院料の在院期間別患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=12)
 削減対象病院と全国病院で精神科急性期治療病棟入院料を届出している病棟(以下「精神科急性期病棟」)に入院している在院期間別の患者構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院83.6%、全国病院67.5%と削減対象病院が16.1ポイント高くなっていた。なお、早期退院機能は、精神科救急病棟と同様、削減対象病院の中でも150床以上病院により顕著に認められた。

5.精神療養病棟入院料の在院期間別患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=12)
精神療養病棟入院料の新規・再診患者別、入院形態別の患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点n=12)
 削減対象病院と全国病院で精神療養病棟入院料を届出している病棟(以下「精神療養病棟」)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では削減対象病院8.5%、全国病院4.8%と削減対象病院が3.7ポイント高くなっていた。特に、150床以上病院の精神療養病棟は、在院期間1年以上の患者割合が37.0%に止まっており、早期のうちに地域社会に戻す機能が顕著に発揮されていた。また、精神療養病棟に入院している患者の入院形態別の構成比をみると、削減対象病院では非自発入院の構成比が63.9%であるが、全国病院では40.4%となっており、23.5ポイントの差が認められた。

6.認知症治療病棟入院料の在院期間別患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=7)
認知症治療病棟入院料の新規・再診患者別、入院形態別の患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点n=7)
 削減対象病院と全国病院で認知症治療病棟入院料を届出している病棟(以下「認知症病棟」)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では、削減対象病院が24.3%、全国病院が12.8%、在院期間6か月未満でも削減対象病院が38.5%、全国病院が26.3%となっていた。特に、150床以上病院の認知症病棟は、在院期間1年以上の患者割合が22.2%に止まっており、早期のうちに地域社会に戻す機能が顕著に発揮されていた。認知症病棟に入院している患者の入院形態別の構成比をみると、削減対象病院では非自発入院の構成比が86.8%であるが、全国病院では64.3%となっており、22.5ポイントの差が認められた。

7.15 対 1 入院基本料の在院期間別患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=31)
15 対 1 入院基本料の新規・再診患者別、入院形態別の患者数(平成 30 年 6 月 30 日時点 n=30)
 削減対象病院と全国病院で精神病棟入院基本料15対1を届出している病棟(以下「精神一般15対1」)に入院している在院期間別患者の構成比を比較すると、在院期間3か月未満では、削減対象病院が19.0%、全国病院が14.0%、在院期間6か月未満でも削減対象病院が32.3%、全国病院が25.1%となっており、それぞれ削減対象病院が5.0ポイント、7.2ポイント高かった。また、在院期間1年以上の患者構成比をみると、削減対象病院いずれのグループも全国病院より低かった。削減対象病院と全国病院で精神一般15対1に入院している患者の入院形態別の構成比を比較すると、非自発入院の患者構成比は、削減対象病院が66.3%、全国病院が46.0%となっていた。

8.平成 29 年 6 月 1 日~6 月 30 日の 1 か月間(以下「平成 29 年 6 月中」)に新規入院した患者の期間別退院割合(削減対象病院と全国病院の比較)n=34 図1
 削減対象病院の平成29年6月中の新規入院患者の退院率は、3か月経過時点で65%(全国病院比+7ポイント)、6か月経過時点で91%(全国病院比+12ポイント)、12か月経過時点で96%(全国病院比+9ポイント)となっており、各経過時点において削減対象病院の退院率は全国病院を上回っていた。また、第2回精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会で示された第6期障害福祉計画の成果目標案と比較すると、削減対象病院は既に6か月時点と12か月時点の退院率の目標を達成していた。

9.平成 29 年 6 月 1 日~6 月 30 日の 1 か月間(以下「平成 29 年 6 月中」)に新規入院した患者の期間別退院割合(削減対象病院内の比較)n=34 図2
 平成29年6月中に削減対象病院の精神科救急病棟に新規入院となった患者の退院率をみると、3か月経過時点では自治体病院と150床以上病院が72% と高く、6か月経過時点及び12か月経過時点では150床以上病院がそれぞれ96%、98%と最も高かった。また100~150床未満病院は、各経過時点で100床未満病院より高く、150床以上病院より低かった。第6期障害福祉計画の成果目標案との比較でみると、既に自治体病院と150床以上病院は各経過時点で成果目標案を上回っており、6か月経過時点及び12か月経過時点では、全ての削減対象病院が成果目標案を上回っていた。以上のエビデンスより、成果目標案の達成には精神科救急病棟での入院治療が有効であり、特に、精神科救急入院料の病床数が多いほど成果目標案の達成には有力であると言えた。

10.平成 29 年度中の平均在院日数(演算値) n=36
 削減対象病院の平均在院日数は110.2日で全国病院の267.7日より157.5日短かった。この要因は精神科救急病棟、精神科急性期病棟の平均在院日数が、それぞれ57.4日、64.7日となっており、入院期間の短期化が実現できていることにあった。一方、削減対象病院の精神一般15対1や精神療養病棟の平均在院日数は、それぞれ227.0日、471.2日となっており、全国病院より短いがこれらの平均在院日数短縮には、重度・慢性患者をはじめとする長期入院患者の地域移行に向けた「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の充実が不可欠である。なお、削減対象病院のうち、自治体病院の平均在院日数が83.8日となっている他、100床未満病院の平均在院日数が149.8日、100~150床未満病院は136.2日、150床以上病院は77.1日となっていた。こうしたエビデンスは、精神科救急入院料の病床数と平均在院日数との間に強い相関があるという結果を示しているものと推認された。

11.平成 30 年 3 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日の間(以下「平成 30 年 3 月中」)に当該病院を退院した患者の再入院率 n=33 図3)
 調査時点は相違しているものの、平成30年度中に削減対象病院の全ての病棟を退院した後の再入院率を、公表値と比較すると、すべての時点で削減対象病院の再入院率が低かった(「第1回精神保健福祉の養成の在り方等に関する検討会、平成30年12月18日、資料2」から引用)2)

12.平成 30 年 3 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日の間(以下「平成 30 年 3 月中」)に削減対象病院の精神科救急病棟を退院した患者の再入院率 n=33 図4)
 削減対象病院の精神科救急病棟退院後の再入院率をみると、退院後 30 日時点では100~150床未満病院が最も低いものの、退院後 60 日を超え1年以内の全時点において病床数が多くなるほど再入院率が低くなっていた。以上のエビデンスにより、救急入院料の病床数が多いほど再入院率が低くなっている実態が判明した。なお、自治体病院の再入院率は、150床以上病院と同様の退院率で推移していた。

13.平成 29 年 4 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日の間における夜間・休日日中の診療件数(外来診察のみの患者数) n=25
平成 29 年 4 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日の間における夜間・休日日中の入院件数(入院となった患者のみ) n=27
 削減対象病院の平成29年度における夜間・休日日中の疾患別診療件数の構成比は、F2が最も多く全体の38.4%(外来37.0%、入院40.2%)、続いてF3の20.8%(外来18.6%、入院23.8%)、F4の10.1%(外来13.2%、入院5.9%)となっており、上記3疾患(以下「当該3疾患」という)で夜間・休日日中の診療件数の69.3%(外来68.8%、入院69.9%)を占めていた。一方、削減対象病院の入院患者に占める当該3疾患の構成比は72.1%であり、夜間・休日日中の診療件数比率より2.8ポイントと高かった。この原因は、削減対象病院が夜間・休日日中に上記3疾患以外の多様な疾患の患者を診療していることにある。

14.2018 年 4 月 1 日~2019 年 3 月 31 日の間(平成 30 年度)における精神科救急入院料の施設基準に係る実績 n=31 図5)
 2018年度における削減対象病院1病院あたりの救急入院料の施設基準である時間外、休日又は深夜における診療件数は643件(病床基準の4.2病棟分)、うち初診件数が196件(6.5病棟分)、時間外、休日又は深夜は226件(5.6病棟分)となっていた。当該施設基準要件と削減対象病院の内訳をみると、自治体病院の実績値は削減対象病院の平均値に近かった。また、救急入院料の病床数が多いほど夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数が多くなっており、救急入院料の病床数と夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数とは明らかな相関が認められた。

15.2019 年 4 月 1 日~2020 年 3 月 31 日の間(令和元年度)における精神科救急入院料の施設基準に係る実績 n=31 図6)
 2019年度における削減対象病院1病棟あたりの救急入院料の施設基準である時間外、休日又は深夜における診療件数(以下「時間外等外来件数」という。)は259件(1.7病棟分)、うち初診件数が77件(2.5病棟分)、時間外、休日又は深夜における入院件数(以下「時間外等入院件数」という)は86件(2.1病棟分)となっていた。当該施設基準要件と削減対象病院の内訳をみると、自治体病院の実績値は削減対象病院の平均値に近く、また救急入院料の病床数と夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数に明らかな相関は認められないが、いずれも150床以上病院が最も多く、150床以上病院は病院単位だけでなく病棟単位でも、夜間・休日日中の診療件数、初診件数、入院件数が最も多くなっていた。

16.2019 年 4 月 1 日~2020 年 3 月 31 日の間(令和元年度)における精神科救急入院料の施設基準に係る1病棟あたりの実績 n=31
 2019年度における削減対象病院1病棟あたりの救急入院料の施設基準を54様式(精神科救急入院料1又は2の施設基準に係る届出書添付書類)でみると、削減対象病院1病棟あたりの時間外・休日・深夜における入院実績87.2件のうち54.2件(62.2%)は精神科救急情報センター・他の医療機関・警察・消防等からの依頼であった。こうした実績は、削減対象病院が、時間外・休日・深夜において地域からの入院応需(マクロ救急機能)に積極的に対応していることを示していた。

17.自院の最大精神病床数(病床削減の実績) n=35 図7)
 削減対象病院のうち80.0%で病床削減が行われている。また国内の精神病床は過去15年間で35.8万床が31.8万床に減少(減床率11.1%)しているが、削減対象病院は既に22.3%の病床削減を行っており、その変化率は2倍を上回った。国の方針である精神科病床数削減が、精神科救急・急性期医療の強化に伴う入院期間の短縮化により、削減対象病院において成功していると言えた。

18.2018 年度(2018 年 4 月 1 日~2019 年 3 月 31 日)における精神科救急医療体制整備事業の実績件数(当番日) n=25
2018 年度(2018 年 4 月 1 日~2019 年 3 月 31 日)における精神科救急医療体制整備事業の実績件数(当番日以外) n=23
 地域包括検討会で示された「精神科救急医療提供体制の都道府県別の状況(2018年度)」では、1精神科救急医療施設(常時対応型・輪番型・合併症型)がカバーする最小人口(富山県3.8万人)と最大人口(広島県47.0万人)の格差は12.4倍に及んでおり、精神科救急医療体制の実態は地域によって大きな差が認められた。
削減対象病院における夜間・休日日中の診療件数についても、入院件数は非当番日は少ないものの、外来件数は当番日と非当番日に大きな差は認められなかった。削減対象病院においては、非当番日においても夜間・休日日中の診療を積極的に行っている傾向が見られた。

19.「精神及び行動の障害」の一人あたり入院医療費 n=31 図8)
 平成29年度における削減対象病院の患者1人あたりの医療費(区分:精神及び行動の障害)を全国病院と比較すると、削減対象病院が2,642千円、全国病院が4,681千円となり、削減対象病院が2,039千円低い結果となった。また、患者1人あたりの医療費と救急入院料の病床数との相関をみると、明らかな逆相関が認められた。この要因は、救急入院料の病床数と平均在院日数との間にも逆相関が認められていることにあり、精神及び行動の障害分野では、救急入院料の病床数、平均在院日数、患者1人あたりの医療費とは強い相関があると言えた。

20.病床数削減にともなう損失分析 n=20 図9)
 病床数削減にともなう各病院の状況は個別に異なるが、削減対象病院のうち 20 病院(自治体 5 病院を含む)だけで、病床削減により削減可能な人件費を控除した医業粗利益(医業粗利益=医業収益-人件費のみで試算)が理論値で約 38 億円、実態値で約 45 億円と影響額が余りにも大きい。なお、施設基準上は削減可能でも医療提供体制維持のために理論上削減可能な人員を削減することは不可能なことから、理論値と実態値に約 7 億円の違いが生じている。

考察
 本アンケートの要点を整理する。
 削減対象病院は、全国病院に比べ措置及び緊急措置入院を含む非自発入院の割合が多く、より重症者を受け入れていた。また、精神科救急病棟のみでなく、精神科急性期病棟、精神療養病棟、認知症病棟、精神一般 15 対 1 を含むすべての病棟において、全国病院よりも在院期間が短くなっていた。
期間別退院割合においても全国病院を各時点で上回り、病床数が増えるにつれ増加していた。また 6 か月時点と 12 か月時点においてはすでに第 6 期障害福祉計画の成果目標案を達成していた。

 退院後の再入院率においては、各経過時点において全国病院を下回っていた。病床数別では、おおむね病床数が多いほど再入院率が低くなる傾向が見られた。
夜間休日日中の診療においては、多様な疾患群の患者の外来及び入院対応をしていた。また、診療件数においても輪番日、非輪番日に関わらず精神科救急病棟の基準を大幅に上回る診療を行っていた。依頼元においても警察や消防など地域の多方面からの依頼に積極的に対応していることが示された。
病床削減率においては、全国病院の 2 倍以上の病床削減を行っていた。

 1 人あたりの入院医療費は、全国病院に比べ 200 万円以上低く、この傾向は病床数が多くなるほど強くなった。
病床数削減に伴う損失分析においては、削減対象病院のうち 20 病院だけで、理論値で 38億円、実態値で 45 億円と影響が非常に大きく、病院の倒産リスクが考えられた。
精神科医療の大きな方向性は、平均在院日数の短縮、精神病床の削減、入院医療費の削減、そして精神障害にも対応した地域包括ケアの推進であるので、今回のアンケート結果を元に考察を加え、今後の精神科医療制度のあるべき姿について述べたい。

平均在院日数の短縮について
 今回の調査から、削減対象病院においては精神科救急病棟だけでなく、他の病床基準の病棟においても平均在院日数が一律に短縮化されていた。これは診療報酬上精神科救急病棟に課せられた受け入れ機能強化により、病院全体に入退院の流れを作っていることに由来すると考えられた。また、この機能は非自発入院を中心とした重症者や多様な疾患群の受け入れに対しても大きな役割を果たしていた。退院後の再入院率に関しても削減対象病院は、良好な役割を果たしていることが確認できた。

精神病床の削減について
 削減対象病院では全国病院に比べ 2 倍以上の病床削減が行われているように、救急・急性期化が進めば空床が増加し病床削減が行われるという国の当初の理論が証明されたわけである。精神病床削減の観点から、全病床数の 2 割以下という制限により、不必要な病床の削減をすれば、治療上必要な救急・急性期病床の削減も同時に行わなければならなくなる。
そうなれば、救急・急性期病棟を保持している病院は病床を埋めることを優先させざるを得なくなり、結果として不必要な入院や平均在院日数の延長につながる事が考えられ、国の病床削減策にブレーキがかかると考えられる。

入院医療費の削減について
 現在、一般科においては入院医療費抑制を背景とした高度急性期病床の削減策が行われている。今回の調査においては、精神科救急病床数が多ければ多いほど、一人当たりの入院医療費が低下しており、一般科の入院医療費とは逆相関がみられた。これは救急入院料の一日当たりの医療費単価は他の病床基準の 3 倍ほどになるが、平均在院日数の短縮化の影響の方がより大きく入院医療費に影響していると考えられる。つまり、入院治療費よりも入院生活費の方により大きく医療費が割かれていることになる。そもそも救急・急性期治療病棟が全病床数の 2 割以下というのには理由がなく、精神科においては精神科救急病床数に制限を設けない方が入院医療費の抑制が行えるわけである。

精神障害にも対応した地域包括ケアについて
 一般科において地域包括ケアシステムが動いているのは、システムが整っているだけでなく、空床促進対策が地域包括ケアを動かす原動力になっている為である。精神病床においても空床が出てくれば、自然に重症者、身体合併症患者、非受診者の受け入れなどの新規患者層を受け入れる環境が整って来るために、精神障害にも対応した地域包括ケア推進の大きな原動力となりうる。一方で精神障害にも対応した地域包括ケアの最後の砦である精神科救急病棟の機能低下や長期入院化が起きれば、地域包括ケアは遅々として進まない。
また、残り 8 割の病床は精神科特例を背景とした病床の人員配置基準となるが、医師の働き方改革を含めた当直体制や退院支援、地域ケアカンファレンスの実施など地域包括ケアを施行するための基本的な診療体制にも深刻な悪影響が起こりうる。精神科医療が 5 疾病 5 事業として地域包括ケアに参加するのであれば、人員配置基準は少なくとも精神科特例を廃止し一般科に近づけていかなければ、他の診療科と肩を並べた対応が困難となる。

精神科診療報酬体系のあるべき姿について
 一般科の診療報酬体系は、診療データを土台に細かく丁寧に設定されている。精神科の診療報酬体系は、十分な細分化が行われておらず、さらに精神科救急病棟のみならず精神科急性期病棟においても全病床数の 2 割以下という規制がかけられている為、精神科救急病棟の基準が 2 割以下に制限された際に一気に精神一般15対1まで基準を落とさなければならない場合があり経済的な影響が非常に大きい。現に一般科においては「平成30年度診療報酬改定Ⅰ-1.医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価⑤(1)急性期医療」3)で、200床の病院で、入院基本料の差を試算すると、年間約1.2億円程度と推計され、影響が非常に大きい、また「報酬の差が大きいこと、また、管理単位が異なると弾力的な傾斜配置ができないことから 7 対1から10対1への届出変更は実質的に困難な状態」とあるが、今回の精神科診療報酬改定に当てはめれば、人員配置分を差し引いたとしても4倍程度の100床あたり411,584千円の収入減となり、経済的な影響があまりにも大きく、病院の倒産リスクが十分考えられる。診療報酬体系を変更するのであれば、まずは精神科救急・急性期治療病床の 2 割制限を廃止したうえで、一般科と同じように診療データを土台
としたより細やかな診療報酬体系を設定すべきである。

今後の精神科医療のあるべき姿と新たなる診療報酬について
 世界の標準的な精神科医療では、精神科入院の平均在院日数は 1 か月前後であり、救急・急性期病棟の入院期間が 3 か月という基準は、世界基準からは未だ長期間である。また現時点においても日本における精神科救急病棟の平均在院日数が 2 か月を切っていることを考えると、診療報酬上精神科救急病棟の入院期間を 2 か月に短縮することは可能であると考える。救急病棟というとあたかも精神科診療報酬の最終系のようなイメージとなるが、日本の精神科医療を世界水準に近づけるためには、さらなる救急・急性期病棟の在院日数の短縮化、高規格のスタッフ配置など、より高規格な病床基準の設定が望まれる。

おわりに
 今回のアンケート結果により削減対象病院は国の方針に則り、良い医療を安く提供していることが判明した。そして海外の精神科医療水準に近づけていくためには、ここで留まらずさらなる進化が必要と考える。このような医療に制限が加わらない事を祈りたい。

謝辞
 今回のアンケートにご協力いただきました病院に感謝いたします。

参考文献
1)杉山直也. 精神科救急入院料および精神科急性期治療病棟の現状と改定の影響. 日本精神科病院協会雑誌 2020;第 39 巻第 10 号
2)厚生労働省. 第1回精神保健福祉の養成の在り方等に関する検討会 平成30年12月18日 資料2
3)厚生労働省. 平成30年度診療報酬改定Ⅰ―1.医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価⑤(1)急性期医療

救急論文資料

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